要約とは、読んで字の如く要を約することです。

 

では、文章の「要」とはなんでしょう。それは、言葉の固まりで作られた文章が一番伝えたいことです。ただ、「文章が伝えたい」は擬人化された言葉です。文章は人の手によって作られます。従って文章が伝えたい=文章を作成した作者が伝えたい事となります。すなわち、文章の要とは、文章を作成した人が伝えたかった事となります。言い換えると話の核とも言えます。

ですから、文章を要約するためには、この核を先ずは明確にすることが必要となります。次に文章の「約」とはどういうことでしょう。「約する」=「具体的に分かりやすくすること」です。では、「具体的に」とはどういうことでしょう。

それは、物事を5W1Hで表現することです。新聞やニュースの文章も5W1Hで構成されていますよね。そして、「分かりやすく」とは、物事を因果で捉えることです。なぜ、そうなったのか。なぜ、そう考えたのか。この疑問に答える文章こそがわかりやすい文章となります。

従って「要約」とは、文章を作成した人が伝えたかったことを理解し、それを5W1Hで具体的にして、因果で分かりやすく表現することとなります。これによって、「伝わる文章」を作成することができます。この「伝わる文章」こそが、社会人に求められるコミュニケーション能力に他なりません。そんなことは簡単だと思われるかも知れませんが結構難しいものですよ。

 

では、早速例題に挑戦してみてくださいね。

以下の例題は、伝わる要約力講座3級で実施する内容を抜き出したものです。

この文章を15分で40字に要約してみてください。

 

例題

▼NHK「新日本紀行」や「きょうの料理」のテーマ、さらにはアニメ「ジャングル大帝」など冨田勲さんの曲には誰の耳にもなじむ親しみやすさがある。そこへ前衛の一さじも加わり、旋律は長く心に残った。テレビを生活に定着させる面でも一役買ったと言っていい。

▼1970年代、米国から苦心の末にシンセサイザーを輸入した後は、未知の機器との格闘を制し、革新的曲作りに突き進んだ。「月の光」「展覧会の絵」「惑星」などの作品群はスタジオで膨大な時間と手間をかけ編み上げられた。映画監督のフランシス・コッポラさんら多くの芸術家にインスピレーションを授けている。

▼音響の極限に挑むかのように国内外で「サウンドクラウド」と呼ばれるイベントを仕掛けたほか、ボーカル音源を持つキャラ、初音ミクとの「共演」も果たしている。音楽の最先端に身を置き続け世を去った。対談などで「今は安価で高性能な機器がたくさんある」と恵まれた境遇の後進に奮起を促すことも忘れなかった。

▼「…音の色合いの出し方にしても、全く際限がない。したがって自分自身がさらけ出てしまうこわさもある…」。冨田さんはアルバム「月の光」で電子音楽への思いをこう書いている。道を開き、井戸を掘った第一人者にも未来へのおののきがあった。AI(人工知能)の技術の前にすくみがちな我々への一灯とも思える。

(2016/5/10付日本経済新聞 朝刊)

 

いかがでしょう。うまく40字にまとめることができましたでしょうか。

★私たちの考えた要約案は以下の通りです。

未来を恐れつつ最先端音楽に挑んだ故冨田氏の足跡は、人工知能にすくむ我々への道標だ。(40字)

では、私たちがどのように思考してこの要約案に至ったか説明させていただきます。

【各段落の要約】

全体を一気に要約する前に、まず各段落を要約します。このとき、キーワードを漏らさないように注意してください。

●第1段落

冨田勲さんの曲には誰の耳にもなじむ親しみやすさがある。そこへ前衛の一さじも加わり、旋律は長く心に残った。テレビを生活に定着させる面でも一役買った。<前フリ>

●第2段落

1970年代、米国から苦心の末にシンセサイザーを輸入した後は、革新的曲作りに突き進んだ。スタジオで膨大な時間と手間をかけ編み上げられた作品群は、多くの芸術家にインスピレーションを授けている。<導入部>

●第3段落

音響の極限に挑むかのように音楽の最先端に身を置き続け世を去った。<きっかけ>対談などで「今は安価で高性能な機器がたくさんある」と恵まれた境遇の後進に奮起を促すことも忘れなかった。<主張の根拠>

●第4段落

「…音の色合いの出し方にしても、全く際限がない。したがって自分自身がさらけ出てしまうこわさもある…」。と冨田さんは電子音楽への思いを書いている。道を開き、井戸を掘った第一人者にも未来へのおののきがあった。<背景>AI(人工知能)の技術の前にすくみがちな我々への一灯とも思える。<主張>

 

では、次に話の流れ(ストーリー)を追いかけていきましょう。

ここでは、話の因果を中心に流れを捉えることが重要となります。因果無視の脈絡の無い40字では、読む人に「なんのこと?」って言われてしまいます。それでは、内容を端的に伝えようとして文章を要約した意味がありません。この点、しっかりと文章を捉える訓練をしていきましょう。

 

第1段落

冨田勲さんの曲は、親しみやすさに前衛の一さじも加わり、旋律は長く心に残ったことを紹介し<前フリ>としています。

 

第2段落

1970年代、苦心の末シンセサイザーを輸入してから突き進んだ革新的曲作りで、多くの芸術家にインスピレーションを授けていることに触れ、今回の<導入部>としています。

 

第3段落

音楽の最先端に身を置き続け世を去ったことを<きっかけ>とし、「今は安価で高性能な機器がたくさんある」と語った対談に触れ、恵まれた境遇の後進に奮起を促した<主張の根拠>と述べています。

 

第4段落

「…自分自身がさらけ出てしまうこわさもある…」。電子音楽への思いを紹介し、道を開き、井戸を掘った第一人者にも未来へのおののきがあったことに触れ<背景>とし、AI(人工知能)の技術の前にすくみがちな我々への一灯とも思えると<主張>につなげています。

 

いかがでしょうか。段落毎の要約とそのつながりが見えれば、あとは40字に組み立てるだけです。では、実際に文章の流れを踏まえたうえで、主張文を基に40字の文章を組み立てていきましょう。

主張文は、筆者が一番伝えたかったことです。今回の<主張>は、『(人工知能の技術の前にすくみがちな)「我々への一灯とも思える。」』でした。この特定は比較的容易だったのではないでしょうか。

では、なぜ筆者は「我々への一灯とも思える。」と述べたのでしょうか?それは、「道を開き、井戸を掘った第一人者にも未来へのおののきがあった。」<背景>からですね。

第4段落では「第一人者」と「我々」を対比させています。一方、第3段落では、『「後進」に奮起を促すことも忘れなかった』と述べています。第4段落と同じように冨田さんの言葉を引用する文章構成になっています。

このことからも、第3段落と第4段落では「後進」と「我々」を対比させているのが分かりますね。このように筆者は対比関係を活用して、主張を論理的に展開していることが読み取れます。

ここで、もう一度主張文を考えてみましょう。「一灯」とは何でしょうか?故人を一灯に例えた比喩表現ですね。要約するときは、比喩をそのまま使わずに具体的な表現とし、本文を読んでいない人にも分かりやすいよう言い換えましょう。今回は、「一灯」という言葉のイメージや「奮起を促すように」我々も導いてくれていること踏まえて、「道標」と要約しました。

次に、<背景>を考えていきましょう。<背景>は、「道を開き、井戸を掘った第一人者にも未来へのおののきがあったこと」でした。要約に含めたいキーワードが多く、取捨選択が難しかったですね。「第一人者」に関しては、本文中に「前衛」、「革新的曲作りに突き進んだ」、「音楽の最先端に身を置き続け」と似た意味を持つキーワードが盛り沢山でした。

今回は、「未来」や「人工知能(技術)」とのつながりから「最先端」を選び、「未来を恐れつつ最先端音楽に挑んだ」と要約しました。

最後に、<きっかけ>をみていきましょう。<きっかけ>は、冨田勲さんが逝去されたことですね。そこで「世を去ったこと」を「故」で表現しました。それから、冨田氏が残した業績や「道を開き」という言葉を踏まえて、「足跡」と要約しました。以上をつなげて40字にまとめて要約文としました。

いかがでしたでしょうか。この要約するための思考を鍛えることで「伝わる文章」を作成することができるようになります。

伝わる文章を端的に作成してビジネスシーンにおけるコミュニケーション能力を高めたいと感じておられる方は、ぜひ「伝わる要約力養成講座」で要約力を鍛えて欲しいと私たちは願っています。

そして、要約力を鍛えた後には、ぜひ「伝わる要約力検定」試験にチャレンジしてください。検定試験によって、みなさご自身の要約力のレベルを客観的に判断させていただきます。

検定は、1級から3級までの各階級を用意しております。皆様のチャレンジを心からお待ちしております